あたたかな証

 僕はひまわりが大好き。あまりにも大好きで国花にするほどだ。

 僕のお家は北の方にあってすごく寒い。でもひまわりは暖かいところでしか育たない。国花なのにお家に植えることが出来なくて困っているんだ。僕もひまわりと同じで寒いところは嫌いだから本田くんやワンくんの家に南下したいんだけど、なかなか許してくれないんだ。僕とお友達なら少しぐらい南下させてくれてもいいのにね?

 アルフレッドくんの家で世界会議が始まる数十分前。もうすぐお昼だ。早くついた僕は受付を済ませると、会議場の外の花壇に水をあげると座り込んでひまわりを眺めていた。

 オレンジかかった黄色の花びらがとても可愛いひまわり。大きく深呼吸をして土の香りを感じ、すごく幸せな気持ちになる。

 僕がそうやってひまわりを見つめてまったりしていると、特徴的な笑い声が近くで聞こえてくる。

 

「ケセセセッ!ルッツに内緒で会議場に来てやったぜ!今日こそ会議に参加してやる!」

 

 後ろを振り返ると、によによと企みを含んだドヤ顔で会場の入り口を見据えて仁王立ちをしているギルベルトくんが立っていた。

 あれ?ギルベルトくんだ。また会議に来たんだ。どうせルートヴィッヒくんに見つかって怒られるに決まってるのに懲りないなぁ。

 

Здравствуйтеズドラーストブィチェ。こんにちはギルベルトくん」

「げげ!イヴァンじゃねぇか!グ、Guten Tagグーテンターク

 

 目を逸らし挨拶を返してくるギルベルトくん。なんかムカつくなぁ。

 

「なんでそんなに嫌そうな顔をするの?酷いよ」

「別にそんなことねぇよ!……お前そんなところでなにしてんだよ?」

「うふふっひまわりを見てたんだよ」

「は?ひまわり?」

 

 不思議そうな顔で、ギルベルトくんはひまわりに目を向ける。

 

「ひまわりっていいよね。僕大好きなんだぁ」

「そうか。じゃ、俺様はここらで去るぜ!」

「待ってよ」

 

 僕は去ろうとするギルベルトくんの肩をガッシリと掴む。

 

「うわっやめろ!なんだよ?!」

「ねぇ、まだ僕とお話をしていたよね?どうして逃げるの?そんなにギルベルトくんはプチッとされたいのかな?」

 

 コルコルコルコルコルコルコルコル……ギルベルトくんは僕とお友達なのに酷いなぁ。

 

「お、俺様のまつ毛が……な、なんだよ?」

「まだギルベルトくんとお話していたいな。……ダメ?」

 

 僕は眉をひそめて自信なくギルベルトくんに聞いた。

 やっぱり友達だと思っているのは僕だけで、ギルベルトくんは僕のこと友達だなんて思ってくれてないのかな……

 目線を右往左往させてまっすぐ僕を見てくる。

 

「……仕方ねぇな。もう少しだけだぞ?」

 

 ギルベルトくんは息をついて、僕の隣に乱暴に座り込む。

 

「うふふっありがとうギルベルトくん」

「ケセセセ!この俺様が貴重な時間を割いてやるんだから感謝しろよ?!」

「――ギルベルトくんはどうしていつもそう偉そうなのかな?」

 

 僕は笑顔でギルベルトくんの左耳を思い切り引っ張りながらそう耳にささやく。

 

「いててててててっ?!!耳が!!俺様の耳がちぎれるだろ?!!やめろ!!」

「ふふっちぎれちゃえばすごく面白いのにね」

「面白くねぇよ!!」

 

 指を放し、ひまわりを見上げる。風に合わせて花びらがそよいでいる。それを目に入れると僕は自然と笑顔になる。

 

「ねぇ、ギルベルトくん。どうしてひまわりって見ているだけであたたかい気持ちになるんだろうね?」

「はっ?!」

 

 目をまん丸にして僕に目線を向けるギルベルトくん。

 

「あー……太陽みたいな形と色をしてるからじゃねぇか?」

「夢がないなぁ。そんなに単純なことなのかな?」

「じゃあなんて言えっつーんだよ」

「うーん……現実的じゃなくてもっとこう幻想的に言ってみてよ」

「はぁ?幻想的だと?……お前俺様に何を求めてんだよ」

「ギルベルトくんならそういう妄想得意でしょ?」

「俺様をバカにすんな」

 

 僕の注文にギルベルトくんは百面相をして口を開く。

 

「ひまわりは人を幸せにする光が宿いし魔法が使えんだよ。その聖なる魔法のサンヴァルムに当てられた奴はあったかい気持ちになっちまうんだ。それはそれは恐ろしいことなんだぜ」

「うん、ごめん。ギルベルトくんの世界観はよくわからないや」

「お前が幻想的にって言ったんだろ!」

「魔法ってなんだかアーサーくんみたいだね」

「仕方ねぇだろ。思いつかなかったんだからよ」

 

 頬を膨らませて拗ねるギルベルトくんは、なんだかんだ言ってきちんと考えてくれたし優しいなぁ。

 

「あのね、僕お友達のギルベルトくんにお願いがあるんだ」

「友達を強調すんなよこえぇな……いきなりなんだよ?お前と友達になった覚えはねぇぞ」

 

 僕は友達になった覚えはないという言葉を無視して続ける。

 

「君の弟のルートヴィッヒくんって科学が得意だったよね?」

「お、おう?それがどうした」

「ルートヴィッヒくんに頼んで、ひまわりを品種改良して寒いところでも育つぐらいに出来たりするのかな?」

「なんだよお前、もしかしてひまわりを家に植える気なのか?」

「うん、そのつもりなんだけど……やっぱり無理だよね」

 

 ひまわりはあたたかい気候で、太陽にたくさん当たってキレイに咲くんだもの。

 

「……まぁ、頼むだけは頼んでみるけどよ。あんまり期待すんなよ?無理なものはどれだけ品種改良しても無理だと思うしよ」

「え、頼んでくれるの?Спасибоスパシィーバ!ギルベルトくん!」

 

 満面の笑みを浮かべて喜ぶ僕。

 

「なっ?!なんで礼言うんだよ?!大したことねぇだろ!」

「お礼言うのに理由なんて要らないよ?」

「そ、そうかよ……」

 

 目線を落とすギルベルトくん。照れてるのかな?

 ……やっぱりギルベルトくんって僕が何かしたら反応いいし、厨ニ病なところはよくわからないけどすごく面白いし、ちゃんと思ったことは言ってくれるしいいなぁ。

 

「……ねぇ、さっきのお願いとは別なんだけど、ギルベルトくんに受け取って欲しいものがあるんだ」

「受け取ってほしいもの?なんだそりゃ」

 

 訝しげに僕を見てくるギルベルトくん。僕はポケットから小さな箱を取り出してふたを開けるとそれを目の前に差し出す。

 

「これはひまわりの……種か?」

「僕がいつも大切にして持ち歩いているものなんだ」

「お前いつもこんなの持ち歩いてんのかよっ?!」

「うん。ひまわりが大好きになってから、すごく育てたくて初めて手に入れた種なんだぁ」

 

 手のひらに乗せたひまわりの種は、長年の時間経過により発芽率は落ちていて他の人からしてみれば持っている価値はないんだと思う。それでも僕にとってこの種はすごくすごく大切なんだ。

 

「……なんでそんな大事なもんを俺に?」

「いろいろあってなんだか僕はギルベルトくんに怖がられてしまう存在みたいだけど、僕はギルベルトくんと一緒にいると、ひまわりを見ているときみたいに心がとてもポカポカしてくるんだ。それってお友達として大好きなのかなって」

「…………マジかよ」

「だからこれはお友達の証としてギルベルトくんに預かっていて欲しいんだよ」

 

 ギルベルトくんは少し悩むそぶりをみせ、僕の手のひらに手を重ねた。

 

「お前がそこまでいうなら、俺様はこれを受け取ることにするぜ」

 

 そうにこっと笑い真剣に返答してくるのを目にし、すごく嬉しくなってギルベルトくんの手をそのまま握りその場に寝転がると、ギルベルトくんも僕に手を引っ張られ一緒に転がる。

 

「お、おい!?」

「うふふっ嬉しいなぁ」

「…………はぁ。まったく」

 

 ギルベルトくんは飽きれつつも頬を緩ませた。

 

「僕たちずっとお友達だよね?ギルベルトくん」

「――お前とずっと友達なんてお断りだぜ」

 

 

 そう言いつつも微笑むギルベルトくんはすごく嬉しそうだ。こんな顔を僕に向けてくれるなんていままであったかな?いつまでもお友達でいられたら、また笑顔を見せてくれるのかな?そうだといいなぁ。


使わせていただいたもの(敬称略)

model:ムキムキの人、roco

accessory:Cloud9、rumea、37

お題はエソラゴト。様からお借りしました。

 

お題

創作屋さんにお題50 20:「向日葵の種」

 

ヴァルムとはド.イ.ツ語でwarmと表記し、暖かいという意味です((