Tea time with cats.

 最近変にダルい。何もしていなくても疲れを感じる。この世とさらばする時が近づいているのかもしれない。

 国の『プ/ロ/イ/セ/ン』として俺は、自身のかっこいいところを引き継いだルッツにド/イ/ツ任せて消えることにはまったく後悔はない。ここまで立派に育て上げたルッツにやりがいや誇らしさ、愛しみを感じている。

 だが、やはり国ではない『ギルベルト』としての自分は、まだまだやりたいことや見ていたいものがあって、いずれ自分が消えてしまうことに納得がいっていない。

 ――まだ、消えたくない。

 

 いつもの通り世界会議にちょっかいを出しに行きルッツに追い出され、ダルさを紛らわせようと会議室の外にある席に座り机にうつ伏せ、グルグルと思考を巡らせていると声がかかった。

 

「ギ、ギルベルト……お前今暇か?」

 

 声の方に顔を向けると、そこにはアーサーが立っていた。どうやらいつのまにか会議が終わっていたらしい。周りを見渡すと扉からゾロゾロとみんなが出てきていてすでに騒がしい。せっかくアーサーが話しかけて来てくれたが、ダルすぎてそれどころじゃない。再びアーサーを視界に入れ述べる。

 

「……俺様は今かなりダルい。だらけることですげぇ忙しい」

「いつも騒がしいのにやけに静かだな」

「元気だといってくれ」

「うるさいだけだろ。……でもお前が元気ないと調子狂うな」

「俺様だって元気ないときぐらいある。で、用件はなんだよ?」

「暇じゃないんだろ?」

 

 ムッとした表情でそう返してきたアーサーに早く言えよと催促する。

 

「……一緒にアフタヌーンティーしないか?」

 

 やがて口を開いたアーサーは目線を足元と俺、交互に視線を移しながら俺をお茶に誘ってきた。

 

「べ、別に俺がお前とアフタヌーンティをしたいわけじゃない!!一人寂しそうなお前のためだからな!!あ、い、いやそういうわけでもないんだが……!」

 

 白く透き通った肌の頬を赤く染めて必死にそう言い訳してくる正面にいる金髪頭はどうやら今日も通常運転のようだ。俺を誘うなんて珍しいなと苦笑しつつ、ツンデレ眉毛の厚意を受け取ることにした。のんびりと茶を飲んで落ち着けば少しはこのダルさが軽くなるかもしれない。

 

「お誘いDankeアーサー。ありがたく一緒に楽しませていただくぜ」

「ほ、本当かっ!?」

 

 パッと可憐な花が開くように顔を綻ばせる相手を目にすれば、俺も釣られて笑みを浮かべる。

 

「すごく嬉しそうだな?」

「ば、ばか!別に嬉しくない!!」

「ケセセセ!俺様とアフタヌーンティーを飲めるんだから光栄に思えよ!」

「……やっぱりやめる」

「おいおい誘っておいてそれはないだろ!?」

「お前が悪い」

 

 目の前のヤツは頬を膨らませ拗ねているものの、結局一緒に茶のひと時を過ごしたいのか馴れた手つきで素早く用意しはじめた。

 質素な机には細やかな刺繍を施したオシャレなテーブルクロスがかけられ、高そうなティーセットや菓子などが丁寧に並べられる。今し方自分がうつぶせていた机とは思えないほど茶のみテーブルに変わった。……こいつはいつもこのセットを持ち歩いているんだろうか?

 支度を終えて席に着くと、微笑みながら紅茶の香りを嗜みつつ紅茶を一口飲む。一息つき俺に目線を向け、先ほど誘ってきた際の態度が一欠けらも見受けられないほどの真顔で唐突にさらっと言い放つ。

 

「お前、ついてるぞ」

 

 ……わけがわからない。ついているとだけ言われてもなんのことだかさっぱり理解できない。

 

「は?ついてるって……何がだよ?運かなにかか?」

 

 出された際、妙にそわそわとしながらフランスの市販品だと伝えられた実に美味そうな菓子にかぶりつこうとしていた俺は、その格好のままアーサーに首をかしげ聞き返した。

 

「霊だ。お前の後ろにいる」

「憑いてるって意味かよっ!?お前もしかして俺をアフタヌーンティーに誘ったのはこのことを話すためだったのか?!」

「あぁ、そうだお前は察しがよくていいな。説明が楽でいい」

 

 満足げに頷いて再び紅茶を一飲みするアーサーを横目に、最近妙にダルかったのは消える予兆じゃなくて霊が憑いていたからなのか?と解釈し、食べようとしていた菓子を口に放り込む。その瞬間、凄まじい衝撃が体を走りぬけ、さらには目に涙がにじみ出てきて食べたことをすごく後悔した。フランス菓子がこんなに不味いはずがないから、これは確実にアーサーが作ったものだ。さては見た目が美味しく見える魔法でもかけていやがったな……

 吐き出すのは悪いなと思い、頑張って咀嚼をして飲み込む。なんで今この状況なのかと思考し、至った結論を対面している料理ベタに投げつける。

 

「うぷっ……霊が憑いているとだけ教えるんだったらわざわざアフタヌーンティーなんて誘ってくる必要なかっただろ」

「うっ……そ、それはだからその、お前が一人寂しそうだったからであって、別に一緒に飲むきっかけにしたわけじゃなんだからな!?」

 

 俺の言葉で、アーサーはティーカップをカチャリとソーサーに置き、あたふた手をあちらこちらとしてあからさまに動揺する。どうやら一緒に飲むきっかけにしたらしい。そんなに俺とアフタヌーンティーをしたかったのかこいつは。なんかそこまで思っていてくれたと知ると結構嬉しいな。……フランスの市販だと偽って不味い菓子を出してきたことは全然嬉しくないけどな。口直しに紅茶を飲みつつジト目を向けるが、目が合わない。

 

「……話を戻すがお前にはネコの霊がついている」

 

 まだ動揺しているのか、視線を右下に、今度はティースプーンで意味もなくクルクルと紅茶をかき混ぜている。そんなことしたらせっかくの紅茶の香りと温度が飛んでしまうと思うんだが……

 

「ネコ?」

「あぁ、すごく可愛らしいネコだ」

 

 小さく頷けば俺に目を向けたあと、俺の後ろ辺りをジッと見つめ口元を緩ませる。

 

「俺ネコに憑かれるようなことしてねぇけどな……」

「憑かれるようなことをしたんだとしたら、どれだけいろいろしてきたんだと考えるが」

「は?!もしかして一匹じゃねーのか!?」

「……軽く十匹以上は肩と頭に乗っかっている」

「なんだその光景可愛いけど怖い!!」

「重くないのか?」

「重いというかダルいぜ」

「さすがムキムキといったところか……」

 

 ムキムキのどこが悪いんだ筋肉は素晴らしいぜそう返してやったらアーサーは舌打ちして言葉を続ける。

 

「お前、そのネコが憑きはじめてから小鳥さ……小鳥がいないことに気づいていなかったのか?」

「そういえば最近見かけてないぜ。そういうことか」

「ネコが小鳥の居場所を奪っていたんだよ」

「そうなのか……小鳥に悪いことをしちまったみたいだな」

 

 寂しいし早いところ離れてほしいところだ。こう思ったのもつかの間、アーサーは俺の心の内を読み取ったように口を開く。

 

「そのうち離れるだろ。恨んでいるというより好かれているみたいだし、放っておいても害はないと思う」

「いやいやすげぇダルいし害ありまくりだぜ!どうにかしてくれ!」

「……もう少しその光景を見ていたい」

「お前の気持ちなんか知るか!そもそも放っておいて大丈夫だと思うなら話かけて来なくてもよかったんじゃないか?」

「そう、だな。仕方ない……」

 

 なにがそんなに気に食わないのか、酷く落ち込んでそう答えてきた。

 

「ネコさんおいで。――あっ……」

 

 俺に向かって両手を差し出し優しく微笑を浮かべたかと思うと、テーブル上のティーカップやお菓子が派手な音を立てて一斉に散らばりオシャレなテーブルクロスは大きな紅茶のシミを作ってしまった。アーサーはやってしまった、と人より立派な眉を下げて捨てられた子犬のような表情を浮かべる。こいつドジっ子か。

 瞬き数回のうちに何事もなかったかのようにダルさが抜けていく。

 

「とりあえず今のでお前の言っていたことを完全に信じる気になったぜ」

「よかったないいネコの霊たちで。アハッくすぐったいなやめろよばかあ」

 

 いいながら失笑しつつ、なにかを撫でるようなしぐさをするアーサー。きっと今こいつの腕にネコが群がっているのだろう。ただでさえ事情を知る俺でもシュールにみえているぐらいだから、知らないでこの光景を見るとするとかなり変人だ。……アーサーにネコが群がっているところを拝めたらきっとすごく癒されるんだろうな。

 

「なぁ、今だけ俺にも霊が見えるようになったりすることは出来ないのか?」

「なんだ?お前、霊に興味があるのか?」

「まぁ、興味はあるな。少しの間とはいえ懐いてくれてたんだから俺様が好きなんだろ?俺様を好いてくれたネコたちを見てみたいぜ」

 

 ネコが群がるアーサーを眺めたいとは言えずにそう返答した。俺の言葉に長い睫毛が生え揃う薄いまぶたをパチクリとさせた後、表情をゆるめて右手を差し出してくる。

 

「一時的に視れるぐらいの力をお前に分けてやる。一瞬ぼんやりとするかもしれないが悪影響はないから安心しろ」

 

 相手の言葉を信じて自分より少しばかり小さい手を握った。瞬間、言われた通りにボーッとするが、意識がはっきりしていくのと同時に眼球にはアーサーに懐く数匹のネコの姿が映し出される。ネコが見えることによって思っていた以上に癒される空間へと変わった。

 

「どうだ?こいつらみんなお前に乗っかっていたんだぜ?」

「……すげぇ可愛い」

「そうか……なぁ、いつ手を離すんだ?もう視えているんだから充分だろ」

 

 アーサーは繋いだままの手に視線を右往左往させて困惑した表情を浮かべた。俺は手の指を絡ませて握りなおし首をかしげ問う。

 

「ダメなのか?」

「っ……ば、ばか聞くなよ」

 

 目を見開いた後、両頬を朱色に染め目線を逸らす。

 

「ケセセDankeアーサー。お前のおかげでダルくなくなったぜ」

「……ふんっ俺に感謝しろよ?」

 

 いつもの調子で鼻を鳴らし口元を緩めそう返答してくるアーサー。さっきまでの照れたアーサーも可愛くて好きだけど、やっぱりこいつはこうでないとな。

 しばらくネコとじゃれたあと床に放し、ネコが荒らしたテーブルを片付けアフタヌーンティーをやり直した。すごくたくさんのネコに囲まれのんびりとしたひと時を過ごせた。それからネコを成仏させ、アーサーと別れた。

 俺がいつ消えるかはまだわからない。嫌でもいずれは消えてしまう存在だ。だからこそどんな時間でも、消えるその時まで大切にしていきたい。そう思った。


もともとAPHのホラー企画に出す予定だったのですが、

しょっぱなから全然ホラーにならずにイチャイチャな感じになったのでボツに。

不憫ズはある意味ホラー耐性ありそうあので、相性悪そうですよね((

 

タイトルの英語は間違っていないのかいつも不安