しょっぱい苺大福
俺 可愛い彼女がいる。甘いものが大好き。
彼女 俺にはもったいないぐらいにとても可愛らしい。
男 イケメン。
今日は自慢の彼女の誕生日だ。
彼女は隣町の高校で一番可愛いと噂される子だ。そんな子が俺と付き合ってくれてるのだから奇跡だ。
出会いはちょうど一年前。そう、その日も彼女の誕生日だった。
俺は甘いものには目がないぐらいスイーツが大好きで、放課後ケーキ屋やお菓子屋に行っては甘いものを堪能していた。
ある放課後いつものようにケーキ屋に入ると、彼女がいた。
そこで好きなものが同じで意気投合をし、晴れて付き合うことになった。
今日はその彼女が大好きな有名なお菓子屋の甘い甘い苺大福を買った。苺大福は、彼女と初めて会ったときに一緒に食べたものだ。俺は苺大福の箱が入った袋を下げ、待ち合わせ場所に向かう。楽しみすぎて約束の一時間前に到着してしまった。
そわそわと腕時計をみたり周りを見渡したりして落ち着かない様子で彼女を待つ。
約束の十分前に彼女は来た――男をつれて。
「私、新しい彼氏が出来たんだ」
……やめてくれ。
男の腕に抱きつき、彼女は笑顔で残酷なことを吐いた。
「当然祝ってくれるよね?」
……なんでそういうことを言うんだよ。
今日の彼女はいつもよりとても可愛い笑顔だ。
「えへへっ、すごいかっこいいでしょ?」
……そんな奴よりも俺の方がかっこいいよ。
男を自慢げに紹介してくる彼女は、頬を苺のように赤めたりなんかして幸せそうだ。
「これからねー私の誕生日を祝ってくれるんだって!」
……本当は今、彼女の隣には俺がいるはずだったのに。
男は微妙な表情を俺に向けてくる。
「えへへ!じゃあ時間ももったいないしそろそろ楽しんでくるね!」
そういって嬉しそうに手を俺に振って、俺から離れていく。
その場で彼女にプレゼントするはずだった苺大福が入った箱を乱暴に開封し、苺大福を口に放り込むがそれはとてもしょっぱかった。
なんで……なんで俺は今一人なんだろう。
俺はテレビや雑誌に出ているようなかっこいい彼氏だったとはいえないけど、それでも彼女に本気で好かれていると思っていた。一年経ってまだ手を繋ぐぐらいで、キスさえもしていなかったけど……それでも大丈夫だって、――思い込んでいた。
なにが悪かった?彼女をいつの間にか怒らせてしまっていたのだろうか?一度だけバイトがどうしても休めなくてデートが出来なかったこと?それとも服のことについて気がきいた言葉を言えなかったから?
……どうしてよりにもよってあいつが彼女の新しい彼氏なんだよ。
彼女と男が歩いていくところを眺める。
彼女の新しい男は、……俺の唯一の親友だ。それが俺には信じられない。
親友は俺と彼女のことをずっとそれこそ昨日まで応援してくれていた。そんなそぶりなんて一度も見せなかった。なんでお前が彼女の隣にいるんだよ!
俺は手を伸ばす。
「待てよっ!!俺の言葉を何も聞かずに逃げる気か?!!」
掴まえたのは彼女ではなく、親友の肩だ。親友は振り返り、驚きの表情を俺に向ける。
「どういうつもりだよ?!なんでこんなことになってるんだよ!どうして俺から彼女を……幸せを奪うんだよ?!なんでだよ!!」
俺は周りの目なんか気にせずに叫んだ。そこで、自分が泣いていたことに気づく。
親友は表情をなくし口を開いた。
「俺、お前のこと好きなんだ」
「…………は?」
「えっ、な、なに?」
俺だけじゃなく、彼女も目を見開いて親友に目を向けた。親友の視線の先は間違いなく俺で、その言葉もおそらく俺に言ったんだろう。
親友は彼女の手をよけて、俺に近づくと涙を拭ってきた。……すごく優しい手だ。
「泣かせて悪かったな」
柔らかい表情でそんなことを俺に言ってきた。
「俺はお前が大切だから、わざわざお前の彼女に迫って試したんだ。お前の彼女がどういう奴なのか、お前がどういう反応をしてくるのか」
な、なに言ってんだこいつ?
「お前この女止めとけよ。お前というすごく想ってくれる彼氏がいながらもすぐ俺に 靡 いたし、お前には笑顔で新しい彼氏だと言って俺を紹介したし最低だ」
「いや、お前が最低だよなにしてんだよ。つ、つかお前す、すす好きってどういう意味で……」
「えっ、し、知り合いなの?」
彼女はそう俺に問いかけてきた。
「知り合いも何も……俺の親友?」
「まぁ、そういうことだから、こいつと別れてやってくれるか?」
「お前なに勝手なこと言ってんだよ?!ふっざけんなバカ!」
「え、お前この女とまだ付き合う気あるのか?」
「あるよ!!」
そう親友に言ったが、肝心の彼女は冷たい目を俺に向けてくる。
「ごめん、私新しい彼氏探すから。別にあなたなんて遊び相手だったし、少し可愛いだけで最初から好きじゃなかったよ。まぁ、あなたの親友はすごくかっこよかったから本気だったけどね。じゃあバイバイ」
清々しいほどにバッサリ振り、彼女は颯爽と去っていった。
「よかったな彼女から振ってくれて」
「うわあぁアホぉおぉおぉおお!!なにしでかしてくれたんじゃあああぁあ!!」
「いや、お前どっちみち今日会って最初のひとことで遠まわしに振られてただろ」
あぁ……ごもっともですね。ってそういう問題じゃねぇ!
「なにそれ苺大福?俺、苺大福食ったことないんだ。どんなのか気になるからくれよ」
「誰がお前にやるか!!俺の可愛い彼女返せよ!!」
「もーらい」
親友は俺の言葉を無視して苺大福を頬張る。
「あまっなにこれ甘すぎるだろ?びっくりした」
「……激甘苺大福だよ」
「ありえん。甘すぎるキモッ」
「キモい言うな!!つかお前甘いの嫌いだろうが!食うなもったいない!!」
「ヤバい想像以上に甘かったせいで飲み込めない……」
「お前これ高い大粒苺使ってる大福だしすごく高いんだからな!吐き捨てんなよっ?!」
「んー……無理」
親友は青い顔をして俺に目を向けてきた。顔をつかまれ口に甘いものを流し込まれる。思わず飲み込み、少し咳き込んで赤面する。
「な、にすんだおいっ?!!」
「何って甘いもの処理だろ。お前に吐き捨てるなって言われたけど飲み込めなかったし」
涼しい表情の親友はそう返してきた。
「なにお前苺みたいに赤くなってんだよ?可愛いな」
「お、お前のせいだろバカ!!絶対わかって言ってんだろ?!つか、可愛いって言うな!!」
「あぁ、そうだけど?お前が好きだって言っただろ。さっきどういう意味でって聞いてきてたけど、そういう意味」
「…………お前ってほんとバカ」
「お前の気持ち知りたいんだけど……どうなんだ?」
俯く俺の顔を覗き込んでくる親友。
顔のほてりと心臓が静まらなくてすごく落ち着かない。
なんだよこれ……マジふざけんな。彼女のことでこんなことになったことがない。美味しいスイーツを食べたときでさえない。
苺大福と親友のせいで今すごく甘い気持ちだ。
「お前なんか嫌いだ!誰が好きになるかバーカッ!」
「えー俺振られた。マジか」
ガッカリする親友を目にして心臓がキュッとなる。
俺はこの気持ちを認めない。少なくとも……今は――
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