出会いはエクストリーム

佐藤のぶお

 生粋のおバカさん。ドMではない。焼きそばパンが大好き。イケメンでラブコメ野郎。

岩崎 怜

 暴力的でめっちゃ怖い。ドS。一人が好き。イケメンが嫌い。筋肉はある方だが馬鹿力っぽい。

 春。蝶が優雅に羽ばたき、花粉が飛び交い、桜舞う季節。春はなんでも飛び放題。

 春はいろんなものが飛んでいて楽しい季節だと思う。俺は春夏秋冬で一番春が大好きだ!

 俺はわくわくと落ち着かない気持ちで新しい制服に身を包み、ランラン気分で今日から歩く通学路をスキップ。鼻歌交じりで笑いくるくる回ったりしながら学校に向かう。

 今日から新しい学校生活が始まるんだ!楽しみだなぁ!楽しみだなぁ!えへへ、友達いっぱいできるかな?

 

「うぃいったぁああっ??!!!」

 

 思いを膨らませてはしゃいでいたら電柱に激突した。あとから一気に襲ってくる痛みに、自然と目に涙が滲んできて視界がボヤける。

 

「うぇー……これ、たんこぶできるかな?」

 

 おでこを押さえてそんなことを呟いて、ハッとした。周りで俺がぶつかるところを見ていたらしい主婦や学生から笑われてしまっている。は、恥ずかしいっ!!

 

「ぎゃぁあぁああああなにやってるんだ俺はー!!もうやだぁあぁああー!!こんな俺を見ないでぇぇえー!!!うわあああぁああああぁん!!!」

 

 ありったけの羞恥心を抱きながら俺は全力疾走でその場を去った。また笑われていたような感じがしたけどもう気にしないでおきたい!

 無我夢中で走っていたら、またなにかにぶつかってしまった。

 

「きゃっ?!」

「うわっとぉお!?」

 

 俺は突っ立ったままだったけど、その子はしりもちをついてしまったみたいだ。どうやら他校の女の子らしい。

 今日から新しい学校で楽しいことが待ってると思ったのに、なんでいろいろなものにぶつかってるんだろう!

 

「ご、ごめん。大丈夫?」

 

 俺はあわてて手を差し伸べ、立ち上がらせた。

 

「ちょっと、あんた気をつけなさいよねっ!!」

 

 女の子の顔が上がった瞬間、その子は目を見開いた。

 

「あ、あの!!あなたが好きです!!」

「……、……。……うぇ?」

 

 ――あ、あれ?なんで俺、告白されてるんだろう?何が起こったの?この人俺の知り合いなのかな?もしかしてさっき頭ぶつけて変になったとか?知り合いの人がわからないなんて……病院に行かないといけない系?それともこれ幻?俺、病院に入院?え、入院しちゃうの俺?やだなぁ!俺どうしたらいいんだろう?!や、やだやだやだやだ助けてください神様仏様焼きそばパン様っ!!

 そんなグルグルと思考を巡らせる俺。

 

「うわ運悪……新学期早々こんなところでリア充の告白現場と遭遇かよ俺」

 

 声が後ろから聞こえてきた。無意識にそっちに視線を移した。

 そこにはこげ茶の短髪の男子生徒が気だるそうに立っていた。制服を見る限り同じ学校らしい。

 

「……悪いんだけど、退いてくれ。そこ、通行の邪魔」

 

 俺が今いるところは人一人分通れる細い裏道で、西から東の今日から通う学校へ行くにはここを通るとかなり近道だ。普段は人と鉢合わせをするような場所ではない。

 

「おいそこの女。告白なんて大層なもんこの顔だけの奴にしてないでさっさと回れ右して退場しろ」

 

 ……なんだろうなんかドス黒い殺気がこの人から漂ってくる気がする。とにかくすごく怖い。なんで俺、道の両サイドを阻まれているんだろ……

 

「なによ!!私は今、運命の出会いを――」

「運命なんかクソ食らえだ。女が鼻息荒くして、間抜け面した男に告白しているところに偶然居合わせて通行止めされてるのが、俺の運命だと?ふざけんな。運命なんかそこら辺に落ちてる犬の糞と同じだ。そんな運命なんか感じてる暇があったら今すぐにでも退けろ」

 

 短髪の人は目を細めて早口で破壊力のある言葉を連ねて言い放った。かなり機嫌悪そう!!てか間抜け面した男って……もしかしなくても俺?!

 女の子はその言葉を聞いて、お世辞なく花のように可愛らしかった彼女の顔が、みるみる般若のように変化した。

 

「なんでそんなこというの?!!さいっっっていっ!!!」

「ぐぎゃぁあああぁあなんでだぁああぁあああぁあああっ??!!!」

 

 あとには脅威の威力なグーパンチを俺のみぞおちに食らわせると走り去っていった。そんな姿を視界の片隅に俺は後ろに吹っ飛んだ。吹っ飛びすぎて、後ろの茶髪の人も巻き込んでしまった。

 

「ゲホゴホッ」

「っいてぇな、おい」

「うぐっ内臓が、……口、から……出てきそ、う……」

 

 ……俺、悪くないのになんで殴られたんだろう。もしかして俺が言ったと思われたのかな……それにしてもすごく重いパンチだった。空手か何かの段を持ってる女の子なんだろうなぁ。女の子って恐ろしい……女の子見かけで判断しちゃ駄目だなぁ……

 

「ふざけんなよあの女。次見つけたらひねり潰す」

「ひ、ひぃいぃいいこっちも恐ろしいぃぃいっ!!」

「お前もさっさと退けよ」

「ご、ごごっごごごめんなしゃい!!!」

 

 俺は急いで立ち上がった。

 

「イケメンだからってなんでも許されると思ったら大間違えだ」

「え、えぇー……」

 

 短髪の人は服についた土ぼこりを払いながら起き上がった。

 なんだろうこの人本当に怖いなぁ。も、もももしかしてすごい不良の人?というか、イケメンって言葉がやけに強調されてるけど何か嫌なことでもあったのかな……

 

「沈黙してイケメンを否定しないあたり腹立つな」

「い、痛っ!?」

 

 ボーっと考えてたら、短髪のそいつは無言で俺のおでこをペシッと叩いてきた。

 

「な、なにするんだよぅ!な、なななんだよっ、やるのかぁ!」

「絆創膏。血、出てるぞ」

「…………へ?」

「一枚あまってたから処理ついでにやる。あとで保健室で殴られた腹のついでにデコにも湿布貼ってもらってこい」

 

 叩かれたおでこを改めて触る。朝にぶつけたところに長丸状のツルツルしたさわり心地がある。……絆創膏だ。あれ、この人優しいのかな?

 

「あ、ありが――」

「アホ面。こっちみんなキモい。イケメンは地に沈んでおけ」

「す、しゅみましぇんっ?!!」

 

 優しいって思ったのに一瞬にして塗り替えられた!でも冷たい立ち振る舞いなのに優しいなんて……なんかかっこいいかも!!憧れる!!これが漢ってやつですかっ?!!ヤバイ、この人と友達になりたい!!!

 

「いつまでもそこに立ってるな。さっさと進め。遅刻する」

「りょーかいです!!」

「…………」

 

 返答はしなくていいからさっさと進めっていう顔をされてしまった。うぬぬ……この人と友達になるの難しそう。

 細い道を抜けて俺は少し考える。まずは自己紹介だよね!

 

「俺、佐藤のぶお!1年A組!」

「あーはいはいモブな」

「え?モブ?」

 

 聞き間違えかな?モブって聞こえたかも。ノブって言ったんだよね?いきなりあだ名で呼んでくれるなんて嬉しいなぁ!

 

「うーんと、あんたの名前は?」

「……なんでお前に教えないといけないんだ」

「えーっ!いいじゃんいいじゃん!!どうして教えてくれないんだよ!どうしてさ!!いいじゃないかぁ!なぁなぁなぁいいだろ、なぁってばー!!」

 

 何も考えず軽い気持ちで茶髪の人の肩に触れる。

 

「鬱陶しいな」

「ほぇ?」

 

 その人は肩に置いた俺の手をガシッと掴んで引き剥がした。

 

「う、ぉおおあああぉぁああ!!ミシミシ言ってるからミシミシ言ってるからぁああ!!ボキボキ折れちゃうよおおおうっ?!!!」

 

 今日は朝から痛い日だ!電柱と女の子にぶつかったこと以外俺は別に悪くないよね?!そうだよね?!こんなの理不尽だよぉお!!

 

「さらにヒートアップするな、お前は壊れた蓄音機か」

「う、ぐすっ……」

「泣くな。男の泣き声とか吐き気がする」

「手を放せば済む話だと思いまっす!」

「お前が泣き止めば済む話だ」

「むちゃくちゃだぁあああ!!」

「俺につきまとうようなら、このまま手の骨粉砕してやろうか」

 

 ヤバイこの人本当に実行しそう!!

 

「や、やめて!!それ再起不可能だから!!勉強できなくなっちゃうよー!!」

「お前はどっからどうみてもバカそうだから別にいいだろ」

「バカは否定しないけどよくないよっ?!それすごいよくないからねっ?!」

「バカは否定しろよ」

「暴力いくない!はんたーい!」

「暴力?違うな。イケメン抹殺力だ」

 

 い、イケメン抹殺力ってなにっ?!そんなもの存在したんだ!?知らなかった!!

 

「って、俺イケメンじゃないしっ!」

「朝から告白されてた奴がよくいうな。あんなの普通なわけないだろ」

「え、そうなの?」

 

 朝ってみんな告白される時間帯じゃなかったのかな?みんないつ告白されるんだろう。あ、やっぱり昼かな?俺も結構されるし。あー、でも放課後の方がかなり――

 

「ぎゃあああぁああああああっ??!!!無言で目潰しなんて酷いよぉおう!!」

「無言じゃなければいいのかお前は。これから遠慮なく無言で殺る」

「ひぃいいいぃいいいいっ??!!!」

 

 ヤバイヤバイヤバイ!これ人殺したことある目だ!!やっぱり不良なんだ!で、でもでもやっぱりかっこいい!!友達になりたいなぁ!!でも殺されたくないよぅう……

 すごい威圧感……ひ、開き直ってみよう。

 

「い、イケメンはステータスだ!希少価値だ!!」

「なんなんだいきなり。嫌味か?今すぐ消えろ」

「や、やだよ!だってあんたと友達になりたくなったんだもん!!」

「は、はぁ?」

「俺ってバカでアホで、ただうるさくてそんなすごい奴じゃないけどさ、あんたは初めて会ったときから冷たく接してきてるけど、俺にさり気なく絆創膏くれた優しい人じゃん!イケメンなんて奴より何倍もかっこいいよ!!」

「なに言って――」

「なんかすんげぇエクセレント!!超紳士!!めっちゃ男の中の漢!!というかあんたがイケメンだし!!ステキ男子!!きゃーカッコイイー!!」

「…………」

 

 茶髪の人は歩みを止めた。

 

「あ、あれ?どうかした?」

「……はぁ。岩崎怜」

「え?」

「俺の名前。同じく1年A組だ」

「岩崎、怜……」

 

 あれ、名前教えてくれたってことは……友達になれた?!

 

「あ、A組ってことは同じクラスだね!!よろしく怜!!」

「おい、近寄んな。というか気安く名前で呼んでくるな」

「えぇえええぇええぇっ?!」

 

 友達になったから呼んでもいいじゃん!!!

 その後、一緒に学校に向かったっていうか、まぁ歩きの早い怜に着いていった。

 学校の時計を見ると登校時間をとっくにすぎている。

 

「あ、遅刻だね!」

「さわやかに笑ってさらっと済ますな。つか、お前と遅刻とか最悪だな」

「いいじゃん!なんか友達って感じ!」

「お前にとっての友達ってなんなんだよ」

「青春を味わう仲!!遅刻ってすっごく青春じゃない?!」

「新鮮のアホだこいつ。天然記念物に指定した方がいいんじゃないのか」

「えへへ、そうかな?」

「喜ぶところじゃないからな。バカにしてんだよ」

「え、そうなの?!」

 

 教室にゆっくりと入ると、新しい担任にいきなり怒鳴られた。

 

「お前たち遅いぞ!今何時だと思っている!!」

 

 俺と怜は脳天にゲンコツを食らった。

 

「いったああ!!」

「チッ、なんで俺まで」

「せ、先生!これ今、流行の体罰問題です!!」

 

 そんなことを言ったらさらに怒号の嵐が待っているとは……

 

「ふざけるな!今はそういう話をするときじゃないだろ!」

「でぇえええ?!れ、怜もなにか言ってやってよ!」

「はー……めんどくさ。なんで俺が」

「他人事のようだ、まるで!!」

「謎の倒置法。……受験のときの国語何点だお前」

「え?十点」

「本当にバカなんだな」

「怜は何点なんだよぅ!」

「百だけど」

「わお十倍!!俺百点なんて取ったことないよ!!すごいなぁ、怜!!」

「お前たち廊下に立ってろ!!」

「きゃー昭和から来た教師だっ!!」

「お前のせいだからな」

「いたたたたた俺のせいにするなよー!」

 

 春。女の子の拳が飛び、俺が真に受けて吹っ飛び、怜がぶっ飛ぶ季節。ついでに先生の怒号もカッ飛んでくる。やっぱり春はなんでも飛び放題。

 春は人の出会いが盛んであると同時に別れがある。でもだからこそ人との出会いを大切にしたいよね。

 学校生活は始まったばかり。めいいっぱい楽しんでやるんだ!!


おバカさんを書くのは楽しいです。

佐藤くんはお気に入りのオリキャラで、制作当時の私はモブモブ言っていました。

この掌編の主人公は佐藤のぶおですが、本編の主人公は岩崎怜です。

お蔵入りしましたが、めっちゃ愛着のあるキャラクター達です。

 

ギャグ系ミステリーゲームのキャラなんですけど、

このキャラで乙女ゲやりたい人とかいるんすかね?

いらっしゃったら教えてください!少し考えてみます……!

 

ちなみに『電波的恋愛論』のタイトルの『電波』は

この原作のタイトル『電波注意報』から引っ張ってきました。

ということは……わかりますね?(((なにがだ

 

いつか完成できたらいいな……